ミニチュア・ピンシャーの歴史

・文:藤田りか子

PinscherBreed history歴史

皆さんは、愛犬の犬種の歴史を知っておりますでしょうか。今回はミニチュア・ピンシャーの歴史をご紹介します。愛犬がどのような歴史をたどってきたのか覗いてみましょう。

ミニチュア・ピンシャー、ドイツの農場で活躍した作業犬

ややもすればスムースのチワワ似です。体はつるり。コンパクトなボディ。小鹿みたいで可憐で可愛いらしい。ただし…。
ミニチュア・ピンシャーに関して「単なる小型犬だから」という過少評価は禁物です。マスコットやぬいぐるみ感覚で飼っては決していけないという代表種でもあります。こう見えても、なかなか気の強い犬らしい犬なのですから。

欧米では「小さな体に大きな犬が潜む」などとテリア同様の形容で、気質が表現されることもしばしば。歴史的には、ドイツの農家のねずみ捕り犬。まさにイギリスのテリアの役を請け負っていました。なので、テリア似の強い性格をもっているのは不思議なことではないでしょう。

実はワイヤードコートを持つシュナウザーとピンシャーは親戚犬同士です。というか、両種は犬種として確立されるまえは、コートのタイプが異なるだけで、同じ犬種でした。一見まったく違う犬に見えますけどね!同胎の中にワイヤードとスムースが混じっていたとも言われています。1800年ぐらいまでは、シュナウザーとピンシャーという区別はなく、すべてピンシャーと呼ばれていたようです。

しかしシュナウザーに比べると、ミニチュア・ピンシャーの方が性格的にテリアっぽいともいえるでしょう。何よりもぴょこぴょこしているし、ひとところに立ち止まっていることが苦手です。それだけバイタリティに溢れた犬でもあります。飼い易い犬を、というのであればミニチュア・シュナウザーの方が楽ではあります。しかしエネルギーとスピードを感じたい!というのならミニチュア・ピンシャーは理想的な犬でしょう。

ピンシャーの本場であるヨーロッパでも、今では誰も本犬を農場の作業犬として飼っている人はまずいないのではないかと思います。とはいてもバッグに入れて街を闊歩するというような、いまどきの小型犬風の飼いかたをする人もいません。もっとも、ミニチュア・ピンシャーのような元気な犬をバッグに入れて歩く必要性は誰も感じていないのかもしれません。

ヨーロッパでミニチュア・ピンシャーの人気がピークとなったのは、実は50年代から60年代。家庭犬としてすでに定着しており、日本にさきがけること40年の歴史がありました。何故、ミニチュア・ピンシャーが当時人気になったのかというと、かつてサロンの貴婦人に飼われていた小型犬という憧れもあったこと。そしてドーベルマンのミニチュア版のような姿のかっこよさ。もちろん性格のよさも人気の秘密でしょう。

西ヨーロッパのみならず、共産主義時代の東ヨーロッパでも非常に愛されていて、当時誰もがペットとして迎えたがった犬のナンバーワンだったそうです。しかし東西の壁のせいで、西から新しいピンシャーの血をいれ殖やすことはできませんでした。そこで、生き残ったピンシャーから、なんと代用の犬種を作り上げて、それで満足したそうです。ポーランドでその犬種の名はラトレレックといい、意味は「ねずみ捕り犬」。しかし「ラトレレック」という言葉自体は、ミニチュア・ピンシャーと同義語として使われることもあるようです。みかけは、ミニチュア・ピンシャーにそっくりなのですが、頭部はどちらかというとアップルヘッド状(チワワのようなドーム型のスカルのこと)。性格の方は、ミニチュア・ピンシャーそのもの。知らない人が敷地に入ってくれば、ワンワンと果敢に吠えて番犬性質も大いに発揮します。

60年代の大ブームから、その後ヨーロッパでのミニチュア・ピンシャーの人気は下降線を辿りますが、その理由は不明。特に健康に異常があったとか、性格が悪くなったとかネガティブな要因はまったくないからです。ひとついえるのは、ヨーロッパでは後に断尾、断耳が違法化されたことで、ミニチュア・ピンシャーのドーベルマン然としたりりしい姿を堪能できなくなったこと。それでショー参加に活発であるヨーロッパのブリーダーのモチベーションが、くじかれたのかもしれません。

現在日本同様、小型犬ブームが来ているヨーロッパですが、性格が「大型犬」然としたミニチュア・ピンシャーについてはそのブームに乗せられることはないでしょう。定番の家庭犬として安定した人気を保っているのが、今の状況です。そして特に北ヨーロッパの国々では、健全性のみならず気質の面でも入念なブリーディングを行っています。それはもちろん過去からの反省にもよります。たとえば北欧のスウェーデンでは、一時的にミニチュア・ピンシャーが人気の時期がありました。人気になると、売れるからいい加減なブリーディングも増えてゆきます。そのとき問題になったのが、神経質なミニチュア・ピンシャーが増えたこと。そしてストレスをためやすい犬、怖がりで噛んだりする犬もちらほら現れました。

しかしミニチュア・ピンシャー・クラブの努力のおかげで、この点はかなり改善されたようです。 多くのブリーダーは、スウェーデンケネルクラブが実施している家庭犬気質・行動テストを最近受けさせ、適切な両親を選びます。あるいは、ある両親から生まれた子犬全てをテストして、確実によい気質の犬をブリーディングしているか、をチェックしています。

ブリーダーが今、努力しているのは、ミニピンがもう少し社交的であること、遊び好きであるということ、好奇心であること、そしてできるだけ番犬気質をもたないこと、要は社会により受けられやすい犬を出す、ということだそうです。今後のミニチュア・ピンシャーという犬種を保存してゆくためには、このようなブリーダーの努力はなくてはならないもの。気質と健全性を重んじたブリーディングが、今後、日本でも広く受け入れられていくといいですね。

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