ブリーディングの歴史 2 世界の犬種開発

犬種の開発とスタンダードの誕生

ブリーディングの歴史 1 犬種の開発とは?でもお話ししたとおり、人と暮らす中で犬は世界中のさまざまな地域に人の移動と共に広がり、それゆえ地理的隔離も受けながらそれぞれの特徴を発達させ、気がついたら「特有のタイプ」として人に認識されるようになりました。そしてその「特有のタイプ」に人々は名前をつけます。たとえば「紀州犬」とか「秋田犬」などなど。犬種という概念のはじまり・はじまり、ですね。

犬種という概念を世界にはっきりと知らしめしたのは、イギリスといっても過言ではないでしょう。何しろドッグショー発祥の国です。ドッグショーが始まったのは1800年代の中頃。このイベントの誕生によって急激に「犬種」を意識したブリーディングが始まりました。同時にたくさんの犬種が確立しました。ちなみに日本犬6種は昭和6年(1931年)から昭和12年にかけて国の天然記念物として文部省によって指定されましたが、これは、まさにヨーロッパの影響を受けてもの。「犬にはそれぞれの特徴をもったあるタイプの集団が存在する」をはっきり認識した結果でもあるでしょう。

とはいえ、選択的にあるタイプの犬を交配させて繁殖させる、という試みはすでに9000年前に存在していたことが遺跡から出土した犬骨から証明されています。シベリアのジョホフ島で発掘された犬骨を調査したところ、当時から人と住んでいた犬は、「ソリ犬」と「狩猟犬」に分けられ選択的に繁殖をうけていたことがわかっています。ソリ犬となるには一定の「スタンダード」があったようで、たとえば体重はおよそ16-25Kgほど。このスタンダードは現在のソリ犬にも当てはまっており、すなわち使役に適した体型が選ばれていたということです。

話を元に戻しましょう。犬種の建設ラッシュであった1800年代のイギリスは、自国にもともといた犬のみならず、世界から犬をかきあつめ、犬種を作っていきました。中国からシーズー、シベリアからサモエド、アフガニスタンからアフガンハウンド、といった具合です。この時、イギリス人はおのおのの地域に一定のタイプが存在することに気がつきました。そしてそれをもとに自分達が理想とする犬を作ろうとしました。その犬を作る人、すなわちブリーダーですね、は、自分達が作出した犬を品評会に出すようになります。品評会に出して賞をもらうことで次の繁殖につなげていきます。品評会では、今ドッグショーと呼ばれているものですが、そのうち犬のタイプによってスタンダードを設けるようになります。というのも、審査員が賞を与える基準がはっきりせず、不公平が存在することに人々は気がついたからでした。

犬種のスタンダードの誕生です。すでに9000年前に人類によって考案されたものですが、イギリスで作られた「スタンダード」は犬種の体の部位別に細かく規定しています。たとえば「マズルはスカルより短く、補細くとがっている。上向きに反り返っているのは好ましくない」「被毛は豊かで下毛がなく、つやがあある」「体高はおよそ28cm」「カラーは白地であればすべての色が認められる」などなど。これをもとにして審査員はどれだけある個体がスタンダードにより近い理想の体型をもっているか審査するというわけです。ただし、どんなに丹念なブリーディングを重ねても生き物ですからすべて見かけが同じの「規格製品」にならないこと。ここが実は面白く、それゆえドッグショーとはいわば「ブリーディングのスポーツ」でもあるのですね。どこまで理想に近づけるか、ブリーダーはあの個体、この個体と掛け合わせながら、つぎの「ヒット」を期待するというわけです。

現在の犬種のスタンダードは1800年代にイギリスで作られたように、主に「見かけ」がもとになっていますが、9000年前のように作業機能がスタンダードになっている犬種もいます。たとえば、フィールド系と呼ばれている狩猟を行うラブラドール・レトリーバーや牧羊犬として使役するボーダーコリーなど。これらの犬の繁殖は、ドッグショーでの成績ではなく、フィールドトライアル(狩猟技能コンテスト)、あるいはシープドッグトライアル(牧羊犬技能コンテスト)などの成績をもとに、繁殖を受けています。逆にこれらの犬たちの見かけは、いわゆる「犬種スタンダード」に沿っていない場合もあります。筆者の愛犬、フィールド系ラブラドールレトリーバーのアシカは数々の狩猟技能テストでよい成績を残し、おかげで子犬をとることもできました。が、みかけはこんな感じ(写真下)!ラブラドール・レトリーバーではなく、ボーダーコリーのミックスですか、とよく聞かれます(笑)

 

文:藤田りか子

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