ブリーディングの歴史 11 犬種ができるパターン

犬種ができるにはいくつかのパターンがあります。以下にいくつかのタイプを紹介します

  • 1. すでに存在していいた使役犬をもとに犬種を作った
    現存する犬種のほとんどが、このパターンでできあがったといっても過言ではありません。牧羊犬種であれば、シェットランドシープドッグ、ボーダーコリー、ジャーマンシェパード、ガンドッグ(鳥猟犬)であれば、コッカースパニエル、ポインター、セターなど、獣猟犬であれば、紀州犬やフォックスハウンドなど。牧畜番犬では、グレートピレニーズやチベタンマスティフなど。愛玩犬種も例外ではありません。ペキニーズ、パピヨンといった愛玩犬種は宮廷でマスコットとして可愛がられていた犬たちが元になって犬種となりました。世界の各地方にさまざまな犬の使役があり、その数だけ犬種があるともいえます。

ただし、使役犬として働いていた頃は、今のような厳密な意味での純血種ブリーディングを受けておらず、仕事ができる犬をもとに交配を重ねていったと思われます。何しろ、20世紀以前ではそれほど交通網が発達しておらず、家畜動物とはいえ、その移動は限られていたはずです。ですから意図せずとも自然に今でいう「純血犬種」に近い犬ができあがったのではないでしょうか。そして犬種にしようと決めたときには、すでに存在している犬をもとにつくりあげているので、血統犬種として割合すぐにケネルクラブに公認されているのものです。

たとえばジャーマンシェパード。この犬種はシェパード創作の父、マックス・v・シュテファニッツが、ドイツを代表するワーキングドッグを造りたいという意図のもと、1899年にできあがりました。とはいえ、彼がブリーディングを開始する前から、すでにドイツではあちこちで牧羊犬のブリーディングが行われており、その中で彼のお眼鏡に適ったのがホランドというオスの牧羊犬でした。この犬を青写真とし、彼はジャーマンシェパード協会を同年に設立。ホランドを登録第一号の犬とします。その後ジャーマンシェパードドッグは急開発されていきます。主にドイツ南部と中央部に存在していた牧羊犬をブリーディングに使い、シュテファニッツの信条「ジャーマンシェパードはワーキングドッグ」を掲げ、繁殖メスの選択を慎重に行いました。ホランドに掛け合わせることで、その子孫を相当数産出したようです。その中でさらに選択を重ね、システマティックにインブリーディング(近親交配)を行い、ホランドの特徴を後世に伝えました。その後ジャーマンシェパードドッグはドイツで大人気を博し数を増やし続けることに。1920年代ではジャーマンシェパード協会の会員数も57,000人に膨れ上がりました。

2. 地犬を犬種にするという試み
柴、秋田、甲斐といった日本犬などがこのカテゴリーに入ります。日本犬のみならず、タイリッジバックやバセンジーもネイティブの犬をあらたに犬種として仕立てた例です。バゼンジーはコンゴを中心とした中央アフリカの村で飼われていた犬でした。それをヨーロッパ人が1800年代にみつけます。そして1930年代にイギリスに輸入された何頭かの犬をもとに犬種が作られました。そのために本犬種の遺伝子プールはかなり限られているのですが、その拡大を図るために今でもアメリカのケネルクラブはバゼンジーの犬種クラブ(BCOA)の要請に応じ、中央アフリカの村落から直輸したバゼンジーを犬種登録させるという「オープンスタッドブック」(外からの繁殖親の流入を許すと言う意味)という制度をとっています。オープンスタッドブックは2030年をめどに終了の予定です。フィンランドやドイツにもアフリカからの犬が数匹入っており、新しい血を導入しています。つまり100年をかけてゆっくりと犬種を作り上げているという過程をここに見ることができます。

3. クロスブリーディングによって全く新しい犬種を作る試み
このタイプの犬種創作が現在進行形で行われているのが、おそらくオーストラリアン・ラブラドゥードルにあたるでしょう。すでに出来上がっている犬種でいえば、フラットコーテッドレトリーバーやレオンベルガーなど。フラットコーテッド・レトリーバーはイギリスで、カナダから連れてきた地犬にセターやコリーなどをかけあわせながら作り上げられました。

また短頭犬のもつ不健全性の倫理的理由より、たとえばイングリッシュ・ブルドッグに変わる新しいブルドッグを作る試みが行われています。現在FCIからは暫定公認を受けているコンチネンタル・ブルドッグは、イングリッシュ・ブルドッグとオールド・ブルドッグとのクロスブリーディング(2001年)からスイスで始まりました。スイス・ケネルクラブと協力してブリーダー達はクラブを立ち上げ慎重にブリーディングを行い現在にいたっています。

いずれのケースにおいても、30年ぐらいの月日が費やされています。

4. 昔いた犬種を復興させる
アイリッシュウルフハウンドやベルジアン・マスティフがその例です。ただし後者の犬は1990年代にプロジェクトが発足。現在まだ再建中であり完全に復興しているわけではありません。ベルギーのベルジアン・マスティフクラブがベルギーケネルクラブとのコラボレーションにてその繁殖管理を行っています。

…………………

ほとんどの犬種は以上のような経緯を経てできあがっており、多くは1900年代初期から中頃までに各国のケネルクラブで公認をうけています。とはいえ、みなさんもご存知のボーダーコリーなどは、70年代なのですね。意外に新しい犬種です。さらに2000年に入ってからもFCIでいくつか犬種が認められています。ホワイトスイスシェパード(2011年)、カルパチアン・シェパードドッグ(2015年)、ルーマニアン・ブコヴィナ・シェパード(2019年)、など約15種ほどが公認犬種となっています。

 

文:藤田りか子

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